株式会社アンカーマン
どのようにすれば今までの延長線上にない未来を創れるだろうか?
原田:中小企業向けの設備投資支援である「ものづくり補助金」の獲得を目的に、その領域を得意とされている和田さんの会社に問い合わせをしたのがきっかけです。その際に「すごい会議」のサービスについてもお話しいただき、導入に至りました。
和田:私たちは「日本酒を世界へ」というミッションのもと、造り手である酒蔵と消費者をつなぐ架け橋となるべくコンサルティングを提供しています。補助金獲得のお手伝いと同時に経営のご相談にもお応えしていくことで、より強力にサポートさせていただいています。
原田:弊社は昨年で創業200年、私で12代目の山口県の蔵元です。しかし地元の周南地域では、日本酒の消費の落ち込みと共に地酒の製造を辞める造り酒屋が後を絶たず、弊社も20年の間、酒造りを停止して業務用酒販のみを事業としていた時期がありました。
地元市場への業務用酒販にも限界を感じる中で、ある時、山口県内での地酒のシェアが非常に低いことを知り、「なぜ自分は酒を造っていないのか。」と沸々と湧いてくる思いがあったんです。使命感のような衝動に突き動かされ、2005年に酒造りを再開してから15年。昨年の創業200年を節目に、会社のリブランディングや今後の100年をどうしていくかを自分たちで考えたいと思ったのがきっかけでした。
原田:会社を大きく変える必要があると感じていました。従業員は10名程度で、ほぼ家族経営のような形です。各自が頑張ってくれてはいても、結局のところ私一人の決断が全てで皆はただそれに従って作業をしているような状態。一人でアイデアを考えるのにも限界を感じ、社員共々進化して、全員で考えて動く集団にしたいと思ったんです。
初めて和田さんと会話した時に、「これなら変わる。やりたい!」と思いました。
和田:「1年後、また3年後にどんな成果が手に入っていれば理想の状態か?」を会話する中で、原田さんから製造量を拡大していきたいという言葉が出てきました。社員の“皆さんと”それを実現するために、目標設定、戦略・戦術の策定をどう練っていくかということを「すごい会議」のフォーマットを使って設計していきませんか?とご提案をしたんです。
原田:まず、「間違っていなかった」と感じました。私以外のメンバー3人が思いのほか前向きで、彼らの目が輝きだしたのを感じたんです。目指す目標を一緒につくりあげたことで、やらなければいけないこと、やりたいことが自分ごととして見えたんでしょうね。
リブランディングのプロジェクトも昨年から進めていますが、それはデザイナーの方が主体となってクリエイティブを考えていく場。それとは別に、私たち自身が、会社の未来という根本的なことを自分たちで考えて話し合う場が欲しかったんです。
原田:現状の2倍の売上を目標にしました。今までになく高い目標ですし、目標の置き方そのものが違います。以前は明確なゴールは掲げず、できることを積み上げた結果この数字まで行ったね、という進め方。今回は、ゴールをきっちり宣言してそれに到達するための作戦を考える進め方。いつまでにどの課題に手をつけるべきかが見えるので、着実に進めやすいです。
目標ができあがった段階で、「これだ!」と全員で盛り上がりました(笑)。
原田:社員があらゆることに積極的になりました。セッションメンバーの3名は、製造、営業、事務部門の中心人物として「選ばれた」という意識がプラスに働いているようで、会議で決まった目標を他の社員に率先して伝達し、促進してくれます。
目標を立ててPDCAを実行していくサイクルができたことで、物事が動いている実感もありますね。
原田:①目標達成のための指標として『酒化率』(原料白米からどれだけの清酒が製成されたかを表す割合)の改善に挑戦しています。
きっかけは「目標は今の売上の2倍だけれど、設備上、酒の生産量を今すぐ2倍にすることはできない。ではどうするか?」という視点です。単価を上げる方法を探る中で、品質を落とさずに酒化率を上げて製成量を増やす試みに至りました。製造担当者が積極的にアイデアを出して挑戦してくれた結果、数ヶ月で酒化率10%改善という驚くべき数字が出ています。
②『各種品評会での受賞数』も新たに設定した指標の一つです。
これまでは特に意識してこなかったのですが、製造担当の女性メンバーが強い熱意を持って挑んでくれた結果、初年度で山口と全国の新酒鑑評会で入賞を果たしました。美味しい純米酒があることを多くの方に知ってもらうためには受賞という方法も重要だと気づき、指標に定めています。
和田:社員の半数を女性が占める酒蔵さんとあって、女性の活躍が心強く目立ちます。みなさんの主体性が素晴らしく、何でも吸収しようという前向きな気持ちを感じています。
原田:新規取引先開拓のために新たな方法でDMを送ったところ、29通中10通も返信いただくという驚異的な成果が出たことです。お取引したい酒販店さんに私が直筆で手紙を書き、サンプル試飲をしていただく方法なのですが、「考えてみればありそうだけど、やっていないこと」を、きっちり実行すると効果が出ることを実感しました。
和田:新規開拓の問題解決の際に、山口県内の他の酒蔵さんがどんなことをして成功しているのかという「事実」を集めたんです。そこで同様の作戦が功を奏しているらしいと分かり、徹底的に真似することから始めていただきました(笑)。
原田:妻が経理部門を担当しているのですが、彼女が理解者として事業を一緒に考えてくれるようになったことです。以前は、家庭の延長として線引きが甘くなる面もありましたが、和田さんに介在いただき会議を実践する中で“家業”から“事業”へと意識が変わりました。家族経営が故に狭まりがちな世界を拡げてもらっています。
和田:会議の開始が2分遅れたことがありました。私からすれば、それは絶好のコーチングポイント。「売上2倍目標という大きな約束を達成しようとしているのに、時間を守るという小さな約束が守られていないように見えます。解決してください。」ということを、プロジェクトを管理する役割の奥様にお伝えしました。すると直ぐに今後の改善方法を提案いただき、打てば響く反応の良さと前向きに変わろうとされる意識を感じました。
原田:常に的確なルールがあることです。目標をつくる仕組み、達成に向かわせる構造、会議進行、コーチの存在。自分たちだけでは決してできません。そして構造があるのに筋書きはないから、達成の障害となる問題にも随時タイムリーにアプローチできます。
また、決まった発言のフォーマットを使ううちにできない理由を言わなくなり、「どうすればできるか」という建設的な会話ができるようになってきました。
原田:まずは社員の幸せのためにも、1年後の目標を達成して十分な利益を出す必要があります。社員の生活を豊かにすることが、次の成長へ向かう基盤になるからです。そしてその先には、酒造りを再開した原点でもある山口県周南地域活性化への貢献があります。それにはもっと多くの人に山口の酒は美味しいと知ってもらう必要があり、世界で知られていくことも必要です。
地元地域の発展と社員の幸せのために、これからも挑戦し続けていきます。
(取材日:2020年12月)