株式会社HERO MAKERS.
組織に「過去の延長線上にない成果」をもたらすのが、私の約束です。
山口:この5年間はちとせにとっての拡大期。岡山で4つの保育園を運営していたところから日本全国65園へと拡大し、職員も300名から1.800名まで増やしました。
拡大するにつれて見えた課題は、保育の質。いかにちとせのDNAを濃くして保育の質を高めていけるか、そこと向き合うための「すごい会議」でした。
山口:大きくは二つで、一つは、園の運営や会議の合理性を高めること。もう一つは、職員を育成する研修体制の確立です。
もともと私は一般企業の出身なので、園の独特の人間関係や会議の生産性の低さが気になっていました。20年、30年と勤めるベテラン職員もいれば若手もいるなかで、上下関係を気にしすぎるが故に職員同士のコミュニケーションに無駄が多い。
園児に関するミーティングは日常茶飯事なのに、前置きが長い、本音が出ない、ベテランを優先して声の大きな人に倣う、など、非合理な慣習を変えたかったんです。
また、保育の質を上げるために最優先すべきことは、優れた保育者の育成と確保。しかし、岡山の園が30年かけて継承してきた“ちとせらしさ”は、急激な拡大で薄れてしまった。不安定な土壌に人を集めれば、摩擦も生じて当然。
『自律性』を育む保育理念を改めて全園に浸透させると同時に、職員の「人間力」向上と人間関係の改善を狙いました。
山口:まず3名の園長を「すごい会議」のICTC(Internal Coach Training Center)コーチ育成プログラムに送り込みました。長年運営してきた岡山の園のように、理想的な運営ができていた調布地区のメンバーです。
彼女たちが「すごい会議」のメソッドやコーチングを学んで自分たちの園で実践したところ、人間関係がさらに良好になり、園が一層活気づいた。園長が変われば園が変わる。「承認」やコーチングがマネジメントに有効だと実証されたと同時に、園長がキーマンであることも証明されました。
3名のコーチを中心に、全国の園長へのオンライン研修を仕組み化できたことも大きな進歩。「社内コーチを学んでよかった」と彼女たちに言わしめたことが、「すごい会議」を続ける原動力になりましたね。
高森(コーチ):基盤もマネジメント体制もないなかで、異なる背景を持った職員が“保育の正義”を主張し合えば、自ずと雰囲気は悪くなる。そこでいかに園長がリーダーシップを発揮できるか。
保育に「すごい会議」のマネジメントシステムがどうフィットするか、僕らにとっても新たな試みでしたが、3名のコーチが素晴らしい翻訳者になってくれたことで、園長の在り方や職員との関わり方の「型」をつくることができました。
山口:例えば、「事実」と「解釈」。「事実」を起点に発言することで会議の生産性が上がりました。また、何らかの事情で保護者の方にセンシティブな対応をする必要がある場合にも、感情や「解釈」で伝えてしまうとトラブルの種になる。「事実」をもとに、ブレない解釈で問題に対処できるようになりました。
「承認」の文化も大切です。「承認」が人間関係を好循環させると実感して以来、「承認」とは何か、職員間で「承認」し合えているか、私も積極的に承認文化を広めています。
シーンを限定せず、職員や保護者とのあらゆるコミュニケーションに役立つコンテンツです。
山口:第一陣のコーチが生みだした効果が素晴らしかったので、追加のコーチ育成を高森さんに依頼しました。西日本には私となじみのある職員が多いため、育成にも取り組みやすい。園長の成長を起点に「いい園」づくりの波を大きくする狙いでした。
高森(コーチ):この構造の肝は、コーチング。8名の園長がコーチングと会議運営のスキルを身につけ、相互にコーチングし合うことで交流と変化のダイナミズムが生まれました。
例えば、大阪の園長が福岡に行って現地の園長をコーチングする、逆もまたしかり。コーチの立場で他園を眺めると、問題は何か、どんな言葉が人を動かすのか、客観的に感じ取れる。翻って“自分の園はどうか”と省みる視点が生まれ、他者をサポートすると同時に自身に大量のインプットが起こる。凄まじい情報量の体験だったはずです。
それを1年近く続けた結果、エリア全体として圧倒的に「いい雰囲気」の園へと生まれ変わりました。
高森(コーチ):一般的な「株式会社」では、売上利益やKPIなどの定量的な成果を重視します。しかし、究極のコミュニケーション産業である保育の現場では、いかに「いい雰囲気」を生みだせるかがすべて、と言っても過言ではありません。
マクロの視点で見て「いい感じ」になったという実感こそ本質であり、成果の表れ。
子供が好きで教育が好きでも、人間関係が悪ければ職員は辞めてしまう。かといって、離職率をKPIに置いてもそれだけは測りきれないのが保育。「いい園とは何か」を、みなさんが追求し続けた5年間でした。
山口:「いい雰囲気」とは、保護者が園に足を踏み入れたときに自分の子供を預けたいと感じるかどうか。職員の関係がよければ職員室は明るくなる。それが子供に波及し、のびのびと過ごす子供を見て保護者も安心できる。子供、保護者、保育者は三位一体。すべての園で家族のような雰囲気をつくることが目標です。
高森(コーチ):離職率が高いなどの黄色信号が立っているエリアに僕が入りました。園の数が多いので、山口さんと園長の距離感もさまざま。全セッションに山口さんが同席し、園との関係を深めると同時に生の情報から課題をつかむことを意図しました。
このプロジェクトの最大の特徴は、エリア別で実施するセッション構造にあります。実は、園長は孤独な存在。園への全責任を負うことはもちろん仕事内容は多岐にわたり、大好きな園児と触れ合える時間も少ない。
同じエリアに属する園長が集う場をつくることで、悩みに共感して情報交換し、共に問題解決する仲間同士のつながりが生まれました。「このエリアでどう未来を描くか」と、思考することも、日常にはない文脈として刺激になったはずです。
高森(コーチ):会話を引き起こすことだけにフォーカスしています。「いい保育園とは何か」という意図を持ち、やりがいを持って働く環境をつくるための“会話の場”をセットアップすること。
その重要性を強く実感したのは、セッションに主任を交えたときでした。現場の情報を誰よりも知っている主任に発言の場がなく持て余している様子に、会話の“場”の少なさと必要性を感じたんです。
極論、問題が解決できずとも、意見をテーブルに挙げられるだけで彼女たちの表情は生き生きとし、勇気づけられる。何より重要なのは会話を起こすこと、そこに徹しています。
山口:日常では自分たちのことを議論する時間はないに等しく、本音を言える場は希少です。最初は「すごい会議」を嫌がっていたメンバーも、いざ始めると「楽しい」「ためになる」と言ってくれる。「すごい会議」の場では全員が発言するというルールのもと、コーチがいることで安心して相談できるメリットを感じてくれているんじゃないかな。
山口:数値目標の達成に向けて合理性を高めるのが「すごい会議」の本流ですが、われわれが求めるのはそこから一番遠い「雰囲気」。その異文化を理解し、丁寧にカスタマイズしてくれたことが核心です。
園児や保護者、職員に対して自分たちは何ができるのか。考え会話する場があることで、職員が以前にも増していい表情をするようになった。貢献心にあふれる彼女たちのスイッチをオンにしてくれるのがこの会議です。
山口:私自身が学ばせてもらえるからです。海外では企業のトップにコーチがつくのは当たり前。コーチが発するイズムを学び、琴線に触れた言葉を職員に向けて発信しています。
それに、会議を続けることで次のチャンスが見つかるんです。例えば、研修を「保育の質」と「人間力」の二本柱に分けてプロジェクトするという案も、会議を進めたから見えたこと。研修が走り始めた今、研修のルールとエリアのルールとがぶつかって摩擦が起きていることも次へのチャンス。「すごい会議」を続ける価値は、チャンスの発掘にあります。
山口:論理的でわかりやすく、さっぱりした距離感で見た目もいい。ひも解きにくい現場に入って会話を増やし、隠れた本音を引きだすセンスも抜群。職員に好かれて当然です。
合理的に数値的成果を上げる「すごい会議」の王道セッションに加え、非可視領域でも成果を上げられる二刀流のコーチは、そうはいないと思いますよ。
高森(コーチ):山口さんの意思決定力です。目に見えない「雰囲気」づくりに投資するという決断は、リターンがあるとわかっていても費用対効果を考えれば勇気が必要。そこを迷いなく断行する山口さんのクレイジーさがすべての源です。
山口さんの根底にあるのは、園児や保護者や職員によりよい人生を歩んでほしいという深い思い。困難をナチュラルに「チャンス」と信じ切る山口さんの笑顔に、みんながいい意味で巻き込まれ、前代未聞の規模の法人が成り立っています。
山口:トップはどんなことでも受け止められるよう、器を広げて愛を注ぐのみ。すべての職員が人生の主役として仕事を楽しみ、持って生まれた素晴らしさを輝かせてほしい。これからも、全職員に愛を伝え続けていきます。
山口:「ちとせで働けていいね、よく入れたね」と、言われる法人にしたいですね。そうすれば自然といい保育者が集まる。この業界は人が命。水準を上げていきます。
他にない規模だからこそ、「すごい会議」でマネジメントシステムを構築できれば唯一無二の宝になる。今後は医療領域にも事業を広げる予定なので、医療福祉と「すごい会議」の融合も仕組み化していきたい。
保育や教育、医療や介護など、非言語を重視する業界でも「すごい会議」はその力を存分に発揮できるはずです。